【書評】『夜のピクニック』(著:恩田陸)ネタバレ&徹底解説

はいどうも、たけうちです。

 

インプットとアウトプットサイクル第二弾ということで、今回は書評的な感じで、名著「夜のピクニック」についてネタバレ&解説をしていきます。私の演技の勉強もかねて、心理分析多めです。

 

ではいきましょう。

夜のピクニックの主な登場人物

3年7組

西脇融

主人公 テニス部 歩行祭の日が誕生日 甲田貴子とは異母きょうだい

戸田忍

水泳部 融と親友

甲田貴子

もうひとりの主人公 帰宅部 文系 西脇融とは異母きょうだい 歩行祭で密かな賭けをしている

後藤梨香

貴子の友人 大学では芝居をやりたい

梶谷千秋

貴子の友人 慶応志望 戸田忍のことが好き

国立理系クラス

遊佐美和子

貴子の親友 理系

内堀良子

西脇融に思いを寄せる

その他

榊杏奈

貴子の友人

二年生まで貴子と同じクラスだったが渡米しスタンフォード大学へ進学が決まっている

榊順弥

榊杏奈の弟、アメリカから来日して歩行祭を見学しにきて、、、?

『夜のピクニック』ネタバレ(なるべく本筋・私見あり)

貴子の密かな賭け

北高鍛錬歩行祭は朝の8時から翌朝の8時まで80キロを歩き通す校内行事。前半はそれぞれのクラス毎に二列縦隊を組んで歩く団体歩行、後半は学年やクラスを横断し好きな人と歩む自由歩行。

 

3年生にとっては高校生活での最後の思い出を作る一大イベントです。

 

この物語の主人公である、西脇融と甲田貴子。二人とも3年7組に所属し、お互い気になるのか共犯者めいた視線を、互いに送っており、周囲からは「付き合っているのでは」「お互い好きなのでは?」とまことしやかに噂されていました。

 

なぜお互い気になるのか、そう、彼らは異母きょうだいでした。

 

西脇融の父が浮気して出来た子どもが貴子。浮気が露呈し、父親は心労も相まって胃がんで他界。西脇家、甲田家ともに、シングルマザーの家庭です。

 

西脇融は、家庭の恥として貴子に憎しみを抱いていました。貴子に罪はないと心では分かりながらも、父親の葬儀に現われた甲田家の堂々とした態度と、貴子の屈託のなさ、そして自分は関係ないという顔に、怒りを覚えてしまいます。同時にそうした自分に後ろめたさを抱いていました。

 

さらに、同じ進学校に入学してきて、しかもクラスまで一緒になってしまった。いなかった存在を認識せざるを得なくなってしまった、動揺と苛立ち。一方で、貴子のことがなぜか気になってしまうもどかしさ。

 

他方で貴子は、融に対して親しくなりたいという想いをずっと抱いてきました。そこで貴子は、今回の歩行祭が終わるまでの間に、融に話しかけて、返事をもらうこと、さらに言えばこのお互いの境遇について会話をすること、というささやかな賭けをしていました。

 

融が、自身の友人である千秋と仲良さげに話しているのを見て嫉妬したり、融からの憎しみの眼差しを向けられてショックを受けたりと、普段は『おっとり』『気だるい』と評される貴子の純情さが細やかに描かれます。

榊順弥くん

貴子は歩行祭の前に、杏奈からハガキを受け取っていました。榊杏奈は2年生まで同じクラスで、渡米し、大学入学資格試験の準備をしている友人。

 

ハガキには、皆と一緒に歩行祭に参加したかったこと、無事にゴールできるように海の向こうから祈っていること、貴子たちの悩みが解決するようにおまじないをかけておいたことが書かれていました。

 

貴子は「おまじない」や「貴子たちの悩み」という謎ワードに引っかかりを覚えていましたが、確認しようもなく、歩行祭は進んでいきます。

 

日も暮れて暗くなり、夕食のあとのもう一ふん張り。ふと、北高の運動着を着て、野球帽を被った、やけに軽装の少年が前を歩いていました。昨年も、どのクラスにも属さない男子が、集合写真に写っていると幽霊騒ぎになっていました。

 

まさか、と貴子が気づくと、少年はこちらを振り向き、笑顔で話しかけてきました。「タカコ?」と。

 

誰かとどこか似ている。彼の正体はそう、渡米した榊杏奈の弟、順弥でした。「アンナは、ミワコかタカコのきょうだいが好き」という発言に、貴子はどきりとしつつ、後の伏線になってきます。

さくっと賭けに勝ってしまった貴子

さて、歩行祭が始まって28時間が経過。日が変わり、仮眠所にたどり着くまであと2時間ほどになった頃、融は18歳の誕生日を迎えました。

 

クラスの夜型お調子者、高見光一郎の声かけもあり、忍、クラスの女子生徒である、梨香、千秋、そして貴子も一緒に、自動販売機で購入した缶コーヒーでささやかなバースデーパーティーが開かれます。

 

真夜中で暗いので、懐中電灯の小さな明かりで、なんとなく誰がどこにいるか分かるような状況。

 

前を歩く融がふと振り返ったとき、「誕生日、おめでとう」と貴子はいつのまにか言って行っていました。「ありがとう」と、融の静かな声が返ってきて、反射的に伸ばした手の先で缶コーヒーがカチリと触れ合いました。

 

なんか決意固めていざってときより、勝手に身体が動いたときの方がうまく行くときあるよね。

 

貴子はあっさり賭けに勝ちました。

 

しかし興奮も束の間、この境遇について会話をするという『次しなければならないこと』に取り組まなければなりません。

 

一方融も、貴子との缶コーヒー乾杯という短いシーンを、何度も反芻をしていました。自分が誕生日を迎えるということは、貴子も今年誕生日を迎えるということ。母は息子の誕生日を祝う度に、息子と血が繋がった娘もまた歳をとることを考えてしまうのだろう、と。

 

そして、融は父親のことを思い出していました。真面目でお堅いプライドの高い銀行マンだった父。同じような家庭、同い年の子どもをつくり、半ば逃げるようにしてこの世を去った父。

 

つらかっただろうな、と、今まで想わなかった父に対する感想が、貴子との乾杯をきっかけにふと沸きます。

 

そして、葬儀時に感じた不快さは、凜とした、堂々とした甲田親子が格好よかったから。他方で惨めで寂しい自分達。二つの家庭に特に差がないことへの苦しみ。馬鹿そうな女だったらバカにできたのに、というもどかしさ。軽蔑する理由がない悔しさに、融は苦しんできたことを改めてはっきりと自覚するのでした。

 

午前2時、坂の上の学校に設置された仮眠所に到着して、団体歩行が終了します。

貴子の秘密を知っていた親友

仮眠所に到着し、貴子は美和子と合流。自由歩行は美和子と共に歩む予定です。

 

融に想いを寄せる、内堀涼子という女子生徒に、美和子を取られそうになりますが、美和子も拒否。「貴子は融のことが好き」という噂が流れているために、涼子のあてつけ、嫌がらせに、2人で憤ります。
断固拒否できる美和子に、貴子は感心しつつ、身体もへとへと。しかし、仮眠に入る前に確認しておくことがありました。それは、杏奈の手紙や、順弥に会ったときに口走っていた「アンナは、ミワコかタカコのきょうだいが好き」という言葉。
美和子に確認しておこうと尋ねると、「西脇君のことでしょ」と。「西脇君は、貴子の異母きょうだいなんだもの」と衝撃発言を放ち、さっさと寝てしまいました。

 

貴子は混乱しつつ、眠りに落ちます。

 

おまじないの正体 キーマン 榊杏奈

仮眠が終わり、昨夜のことが気になりつつ、貴子は美和子と、融は忍とそれぞれ自由歩行をスタート。

 

「自由」と言っても時間制限があるため、最初のうちは疲労のたまった身体にむち打って、走って距離を稼いでおかなければなりません。

 

貴子たちは途中まで走り、チェックポイントを過ぎてからは早歩きに切り替え。美和子に、昨晩のことをおそるおそる尋ねました。

 

美和子がなぜ、この異母きょうだいのことを知っていたのか。それは、貴子の母である、甲田聡子が、美和子、杏奈が貴子の家に遊びに来たときに、このことを教えていたからでした。

 

「貴子は融に対して罪悪感を持っているに違いない。貴子はそういう子だから。そこの責任を持つのは親の務めだけど、学校までは目が行き届かない。だから、どうか貴子をよろしくお願いします」と。

 

美和子、なんたるポーカーフェイス。

 

一方、融と忍は快走していましたが、あと10kmというところで、融は、もともと不安のあった膝を庇っているうちに、足首を捻挫してしまいます。

 

悔しさにくれる融。歩けないことはないけど、熱を帯び腫れ始めた足首。

 

そのとき、たまたま側を通りかかったのは貴子と美和子でした。負担を軽減したらマシのでは?という2人の提案で、融の荷物を3人で分担し、貴子は忍と、美和子は融と語らいながら、4人で歩き始めました。

 

すると、そこで順弥くん登場。友達の車で移動し、川辺でキャンプをしながら夜を明かしていたようでした。

 

昨晩会った貴子や美和子とは楽しく談笑。融と忍とは挨拶をしました。

 

融の名前を聞いた順弥くんは融に対して「きょうだいいるでしょう」「同じ学年に」と爆弾発言。慌てる貴子。すべてを悟った忍。

 

貴子と融の血縁関係がばれてしまいました。

 

杏奈の掛けた「おまじない」とは、まさにこのことでした。歩行祭を通して貴子と融が和解すること。でも貴子と融は似過ぎてて、本当は仲良くしたい、和解したい深層心理に気づかず、憎しみや罪悪感を理由に向き合わない。

 

だからこそ杏奈は、弟の順弥の性格をうまく使って煽り、荒療治よろしく、海の向こうから爆弾を投げてよこしたのでした。

 

杏奈は小説の中で過去の回想でしか登場しないのに、この物語のキーマンでしたね。

 

さて、親友なのに大切なことを言ってくれなかった融に対して、忍は傷つき、怒りをぶつけますが、融は詫びつつ「家庭の恥だったんだ」と打ち明け、和解。

 

美和子や高見光一郎たちの計らいで、ふたりで歩く貴子と融。

 

すごい、並んで歩いている、と感激する貴子。意識も感情もそのレベルが似通っている点で、きょうだいなのを感じる融。

 

今まで周りから「くっつきたがっている」と見えたのは、二人がやはり似ていたからでした。

 

貴子は「今度家に遊びにおいでよ」と誘い、貴子の願いを受け止めた融。貴子は興奮と共に、2人の関係性はここでは終わらない不安や恐怖心を感じながら、明日への一歩を踏みしめていくのでした。

解説

夜のピクニックを読了し、それぞれの心理分析も行ってみました。メタなところから、細かなところまで私見を書いていきます。

青春

本作は「青春小説」として紹介されることが多く、高校生同士の恋愛や友情といった青春小説らしい「キラキラ」も描かれています。

 

他方で、貴子や融はどこか引いた、冷めたところがあります。融は「不定型な女たちの思い出作りに利用されたくない」とまで思っていますね。

 

私が一番刺さったのは、精神温度が低いところで安定しつつ熱く語れる漢、戸田忍が融に放ったこちらのセリフ。

「雑音だってお前を作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聴こうと思った時にはもう聞こえない。おまえ、いつか絶対、あのとき聞いておけばよかったって公開する日が来ると思う」

「もっとぐちゃぐちゃしてほしいんだよな」

私も結構生き方として融と似通ったところがありました。良い大学進学して、はやく自立して、抜け出したいと。現在を未来のために使う生き方をしてきました。

 

隙あらば恋愛する同級生たち、青春の思い出作りをする同級生たちを尻目に、勉強と部活に打ち込んだ高校生活でした。

 

融も、シングルマザーの家庭だからこそ、責任感があり、「はやく自立をしたい」気持ち一心で高校生活を突っ走っているところ。そして、モテ男だからこそ、「思いで作りに利用されたくない」という気持ちを持ち、思い出作りに必死になる同級生達を、少し軽蔑しているところがあります。

 

ここでの忍のセリフは、もっともみくちゃになれよ、というのは、今現在にもちゃんと責任をもって、ちゃんと関われよというメッセージ。未来のために今をないがしろにするな、という説教です。ガツンときましたね。もっと青春しときゃ良かったー。

融と貴子

責任感の強い融、おっとりとした貴子。貴子に対して憎しみを抱く融と、融と親しくなりたい貴子。性格も表出する感情も対照的に描かれた二人でしたが、心の奥底、深いところでは、とても似通っていました。

 

「一方から見たら憎しみで、他方から見たら罪悪感。でも中身は同じ」という趣旨のセリフがありましたが、「でも本当は理解し合いたい」という同じ根源欲求を二人とも持っていた。似すぎているからこそ、その根源欲求に向き合わないところは同じで、憎しみや罪悪感、新しい関係性を築けば引き返せない恐怖など理由に目を背ける。

 

改めて人間は、自分に嘘をつくのが上手い生き物なんだなあと感じました。

 

融が周囲から「貴子とくっつきたがっている」とからかわれ、「おれたちはきょうだいなんだぞ」と心の中ではっきりと認めたことに自分で動揺するシーンなど、自分の心に気づく出来事が重なってラストシーンに繋がっていくこの流れ。

 

歩くという単調な行為の中で、語らうことで溶け出していく本音や感情、そして変化する関係性が表現される。彼らに感情移入し、喜びや楽しさ、懐かしさを噛みしめられるのは、この「夜のピクニック」だけだなあと感じたところです。

まとめ

まとめると、

恩田陸は女性です(驚愕)

以上です。

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